The Miraculous Calf ※1の絵 ぼくの名前は元気君です。 これからお話をするのは、ぼくが本当に体験した、本当にあったお話です。 それは、いまから8年前のこと。 おそろしい台風が岡山県をおそった時のことです。 ぼくはその時、生まれて半年の赤ちゃん牛でした。 歩くのがやっとの子牛だったのです。 いまでは、きせきの子牛と呼ばれています。 そして、全国から沢山の子供達がぼくに会いに来てくれています。 それでは聞いてください。 はじまり はじまり。(拍子木を打つ、パーン パーン) ※2の絵 お父さん、お母さん、今日はお天気がいいね。おさんぽにいきたいよー。(子牛) うん、うん、もうすぐ散歩の時間だよ。待っててね。(母) ※3の絵 さー、みんなで楽しくお散歩だよー。(母) おや、風が吹いてきたぞ。あれ、雨も降ってきたぞ。(父) こんなに、お日様がてっているのに変だなー。(子牛) ※4の絵 ぼくは、いそいで、自分の部屋に帰りました。 部屋の外からもうれつないきおいで雨がおそってきました。 風の音がだんだんとはげしくなって、ゴウゴウと鳴っています。 おばけがくるよー。こわいよー。助けてー。(子牛) ぼくは、ガタガタとふるえながら、じっとしているのがやっとでした。 ※5の絵 ゴーゴー、ドドン、バシャン、水の音です。 ウワアー、ぼくの部屋はあっと、いう間に水でいっぱいになりました。 水が首まできて、たくさんの水をのみました。 苦しいよー。お母さん、お父さん、助けてー。(子牛) ぼうやー。ここにいるよ。(父、母) お父さん、とお母さんの声が聞こえました。 ※6の絵 早くさくから出なさい(母) お前なら体が小さいから、できるよ。がんばれ。(父) お母さんとお父さんは、体が大きいからさくから出られないの。お前ならだいじょうぶ。 元気をお出し。(母) その言葉を最後に、お母さんを真っ黒な水がのみこんでしまいました。 ※7の絵 お父さんは、なんとか、さくをこわして出ることができました。 ぼくとお父さんは、あれくるう、くらやみの吉井川を、泳ぐことにしました。 ぼく泳げないよー。苦しいよー。おとーさん、もう、だめだよー。助けてー。(子牛) ※8の絵 ぼくは水の中にしずんでいきました。手も足も棒のようになって動きません。 真っ黒なくらやみしか見えません。 ※9の絵 その時、かすかに、牧場のおじさんの声が聞こえたような気がしました。 頭をそっと上げてみると、いつものやさしいおじさんの顔が見えました。 おじさんが懐中電灯を持って、助けにきてくれたのです。 ※10の絵 ぼくは元気がわいてきました。 いっしようけんめい泳いでおじさんのところに、行こうとしました。 ところが、川の水が、おそろしい姿になって、おそいかかってきました。 はげしい風がうなり声をあげています。 こわいよー。おじさんー。ワアー(子牛) ※11の絵 これにつかまれ。(父) お父さんの声です。 お父さんは大きな木につかまっていました。 うん。 ぼくは必死で木にすがりつきました。(子牛) ※12の絵 ガーン、ガッガーン、ドカーン、大きな岩にぶつかりました。 お父さんとぼくはおもいっきりたたきつけられて、跳ね飛ばされました。 お父さんが見えない。(子牛) お父さん、お父さん、おとーさん。どこにいるのー。(子牛) お父さんの姿がまったく見えません。 あたりはまっくらで、小石のような雨が降りかかって、折れた大木がぼくをめがけて飛んできます。 おそろしい風のうなり声。 バキャン、ドカーン、ドドドドー、ガガーン、ゴゴー、 もうだめだー。泳げないよー。(子牛) ※13の絵 ぼくはもう木につかまっている元気もなくなりました。 そして、木は体から離れていきました。 しばらくうとうととしていると眠くなってきました。 体も水の中にだんだんと沈んでいきました。 ぼんやりしていると、川の魚達がたくさん、ぼくのまわりを泳いでいるのが分かりました。 ※14の絵 ぼくは、はっとしました。 お父さんや、お母さんの声が遠くで聞こえたような気がしました。 元気をだせ、ぼうや。(父) あきらめたらだめよ。(母) そうだ、がんばるぞ。 そうしたら、また、やさしいお父さんとお母さんにきっとあえる。 よし、まだあきらめないぞ。 お魚さんといっしよに泳ぐんだ。 ※15の絵 今は、お魚さんがしっかりとぼくをかこんでくれて、お友達になってくれました。 ぼく、ひとりぼっちで心ぼそかった。元気をくれて、本当に有難う。(子牛) どれだけ泳いだでしょうか。 朝日がのぼっていました。 目の前に黄色い島が見えました。 ぼくはその島をめざして、一生懸命泳ぎました。 それからは、本当におぼえてないのです。 気がつくと、島で眠っていました。 ※16の絵 おおーい、ぼうず、だいじょうぶかー(牛のお医者さん) 牛のお医者さんが島に助けにきてくれました。 うん、元気だよー。(子牛) ぼくは思い切り、しっぽをふって、モーと叫んでいました。 次の日、ぼくは牧場に帰ることができました。 すぐ、お父さんやお母さんをさがしました。 お友達もさがしました。 だれもいません。 いくら呼んでも、姿も声もありません。 ぼくだけが生きていたのです。 毎日ずーと悲しくて泣いていました。 おじさんが、かわいそうに思って、子牛さんがたくさんいるところに連れてってくれました。 そして、5才の幼稚園の男の子とお友達になった時、ぼくに元気君と名前をつけてくれました。 それからは、テレビに何度も出演しました。 そして、いつの頃からか、きせきの子牛元気君と呼ばれるようになりました。 みなさんも、ぜひ、ぼくとお友達になってください。 (おしまい)