Digital Okayama Encyclopedia | Okayama Prefectural Library

Reference Database > 山形マット死事件

山形マット死事件

Content of questions

山形マット死事件の裁判の経過と問題点について知りたい

Content of answers

①『学校の中の事件と犯罪3』には、事件の概要が記載されている。1993年1月13日、山形県新庄市にある明倫中学校の1年生だった児玉有平君(当時13歳)が体育館用具室の体育用のロングマットの空洞部分に、足だけを出した逆さ状態で窒息死した姿で発見された事件である。本事件においては、少年審判での非行認定が2転3転するという事態を引き起こし、少年法改正への一要因となった。
 山形県警は、1月17日に主犯格とされたA(当時14歳の中学2年生)から自白を得、それにもとづいて18日にB、C(当時14歳の中学2年生)を逮捕し、刑事責任年齢に達していなかったD、E(当時13歳の中学2年生)、F(当時13歳の中学1年生)G(当時12歳の中学1年生)を補導した。
 7人はこの事件以前にも、有平君に一発芸を強要するなどの「いじめ」を行っていたが、事件当日は有平君が一発芸を拒んだため、集団で暴行を加えて体育館の用具室内に連れ込み、マットに頭から押し込んで放置し、死亡させたというのが、逮捕、補導の理由であった。
 A~Gの7人は捜査段階で1度は事件への関与を自白していたが、事件が家庭裁判所へ送られた後、A~Fの6人はアリバイを主張し、事実を否認した。GもAの審判証言において事実を否認した。
 山形地方裁判所は7人の加害者のうち、A~Cの3人には無罪を、D~Gの4人には有罪を科した。そののち、有罪とされた4人が仙台高等裁判所へ抗告を行ったが、高等裁判所は4人の申立てを退けた。同時に審判の対象になっていないA~Cの3人にも非行に関わっていることを示唆した。その後有罪とされた4人は最高裁判所へ不服を申し立てたが認められず、加害者とされた7人のうち、4人が有罪、3人が「灰色」という結果となった。
 児玉有平君の遺族は少年審判と保護処分をめぐる訴訟が一応の決着を見た後、7人の加害者と学校設置者である新庄市に対して損害賠償を求める訴えを起こした。山形地方裁判所は、有平君に対する日常的ないじめがあったことは認めたものの、有平君の死亡といじめの関係を否定し、7人の生徒の自白に関しては「自白の信用性をも肯定することはできない」と判示した。そして自白の信用性がないこと、遺体・現場の状況等から、いずれの少年についても非行事実が認められないとして被害者遺族からの損害賠償請求はすべて棄却した。
 遺族側はその判決を不服として、仙台高等裁判所に控訴した。仙台高裁は、Aの自白の問題点を指摘しつつも、1審判決とは対照的に「Aの自白は大筋で信用できる」と判示したのをはじめ、その他のB、C、D、E、F、Gの自白についても、保護者の立ち合いがない状態での長時間の取り調べなど捜査の問題点に言及しながらも、「大筋において、少年の自白の信用性が認められる」などとし、少年らの主張したアリバイの存在も否定した。その上で、7人全員の事件への関与を認め、遺族4人に対して総額で約5760万円の損害賠償責任を認定した。
②『少年犯罪の社会的構築』においては、本事件の問題点を3点挙げている。
 1.決定的な物証がなく、事実認定がもっぱら自白や目撃証言といった「語り」によって支えられているということ。
 2.事実認定手続きレベルでの少年法改正論議を喚起した事件という性格を付与されたということ。
 3.「事件に4名が関与、3名は非行事実なし不処分」(山形家裁)「事件に7名全員が関与」(仙台高裁、警察、遺族ら原告弁護団)「事故死」(付添人弁護団)など、事件をめぐって鋭く対立する解釈が併存しており、社会的な次元では「誰が何をしたのか」という事実関係がいまだ宙づり状態となっており、誰もが納得できる「真相」へと到達できてないこと。
 ③2016年3月1日の読売新聞の記事には、同事件の民事裁判が継続していることが書かれている。記事によると、山形県新庄市の市立明倫中学校で1993年1月、1年の児玉有平君(当時13歳)が体育用マットの中で死亡した事件を巡り、遺族が、傷害や監禁致死容疑などで逮捕・補導された当時の生徒の一部に、確定した民事訴訟の損害賠償額計約5760万円の支払いを求め再提訴した訴訟の第1回口頭弁論が1日、山形地裁(松下貴彦裁判長)で開かれた。元生徒側は請求棄却と一部却下を求める答弁書を提出、争う姿勢を示した。
 児玉君は学校の体育館用具室で、丸めて立てかけたマットの中で頭を下にして死亡していた。逮捕・補導された7人のうち、児童福祉司指導処分となった1人を除く6人が家裁送致。少年審判では、3人が刑事裁判の「無罪」に当たる不処分、3人が事件に関与したとして保護処分となった。遺族が元生徒7人に損害賠償を求めた民事訴訟では、2005年に最高裁で遺族側の勝訴が確定した。
 遺族側代理人によると、再提訴は時効による損害賠償請求権の消滅を防ぐのが目的。請求権が消滅時効を迎える判決確定10年後の昨年9月まで、7人とも支払いに応じなかったという。遺族側は、うち4人に対し差し押さえ手続きを取り、時効を中断させたが、残る3人は勤務先が不明で差し押さえができず、再提訴に踏み切った、と書かれている。

Library / institute

岡山県立図書館

Category Information

Category InformationReference Databaseレファレンス事例データ岡山県立図書館

Meta data

Reference cases
Title
Reference cases
Title

山形マット死事件

(ヤマガタマットシジケン)

Library or group that answered
Library or group that answered

岡山県立図書館

(オカヤマケンリツトショカン)

Source (answer)
Source (answer)

①柿沼昌芳, 永野恒雄『学校の中の事件と犯罪 : シリーズ 3(1973-2005) 』 批評社,2005,197p. 参照はp.46-50.
②北澤毅, 片桐隆嗣『少年犯罪の社会的構築 : 「山形マット死事件」迷宮の構図』 東洋館出版社,2002,286p. 参照はp.4-6.
③「山形マット死賠償 再提訴 5760万円支払い求め 元生徒側争う姿勢」『読売新聞』,2016.3.1,p.13.

NDC classification
NDC classification

372:教育史・事情

368:社会病理

View the other metadata
URL on this page
URL on this page

http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/detail-en/id/ref/M2018112516412990559