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大和三山全てが詠まれた歌の全文と解釈

質問内容

万葉集で大和三山の名前(天香具山・畝傍山・耳成山)が全て出てくる歌がある。その歌は天香具山と耳成山を女性、畝傍山を男性として詠んでおり、2つの女山が男山を巡って争うというような内容であると何かで読んだ記憶がある。その歌の全文と、どのような解釈があるのか解説している本が見たい。※耳成山については「耳梨山」という表記もあり。

回答内容

①『新日本古典文学大系 別巻[5] 万葉集索引』の地名索引で大和三山の名前を一つずつ引くといずれにも歌番号1,2,13,52の歌があった。

②『新日本古典文学大系 1 万葉集1』で①の歌を調べると歌番号13の脚注に「香具山は畝傍山を取られるのが惜しいと、耳梨山と争いあった。」と記述があり、該当の歌であると確認できる。また、歌の原文と次のとおり書き下し文が記載されていた。「香具山は 畝傍を惜しと 耳梨と 相争ひき 神代より かくにあるらし 古も 然にあれこそ うつせみも 妻を 争ふらしき」。そして歌の解釈については「この歌も男二人に女一人の妻争いで、香具山と耳梨山が畝傍山を争ったという構図であろう。原文『雄男志』の表記を重視して『雄々し』と解釈すれば、香具山は女性、同性の耳梨山と争ったことになるが、『雄男志』は『を惜し』と解する説に就く。」と記述がある。

③『大和三山の古代』の「第三章 中大兄の三山の歌」には「中大兄が歌った三山」の項があり、歌の書き下し文が掲載されている。そして「香具山は女か、男か」の項に、三山の性別については「定説はない」と記述がある。また、①の資料と同様、原文「雄男志」の解釈によって「A香具山女性説」と「B香具山男性説」に分かれると記述がある。それらを踏まえ、「二つの香具山女性説」の項では、三山の性別は「Aの第一種 香具山(女)・畝傍山(男)・耳成山(女)」、「Aの第二種 香具山(女)・畝傍山(男)・耳成山(男)」、「B 香具山(男)・畝傍山(女)・耳成山(男)」に分類できるとしている。著者はいくつかの論文を取り上げ現在の研究状況を説明しながら、「ツマ争い伝説のパターン」の項では、「歌の表現から三山の性を割り出すことはできない」という説に賛同している。また、万葉集のツマ争い伝説などを根拠とし、「よりB説の方が有利だと判断する」と記述がある。また、「額田王、天智、天武の三角関係」の項では、この歌が三者の三角関係を詠んだという説に関して「今日の万葉研究は、この解釈を全く否定する。」とし、その理由について記述がある。

④『万葉の風土・文学』には「大和三山歌『雲根火雄男志等』考」という論文が掲載されている。「一」の項では、③の資料と同様、歌の中の「雲根火雄男志等」の部分などの解釈によって歌に出てくる三山の性別や歌の意味に議論があると記述がある。この資料では「(a) 香具山〔女〕・畝火山〔男〕・耳梨山〔男〕」、「(b) 香具山〔女〕・畝火山〔男〕・耳梨山〔女〕」、「(c) 三山〔男〕他の一人の〔女〕を争う」、「(d) 香具山〔男〕・畝火山〔女〕・耳梨山〔男〕」の4つの説が紹介されており、「大別すれば、(a)(b)は『雄男志』を『雄々し』と解し、(c)(d)は『を愛し』ないしは『を惜し』と解する。」との説明がある。また、「現時点での一般説は〔d〕である」と記述がある。それを踏まえ、著者はこの論文で「雄男志」の解釈について語法を根拠に考察している。「三」の項では、「を惜(愛)し」とした場合、語法のほかにも「古写本いずれも『等』や『雄男』に文字の異同がない」という根拠により「『を惜(愛)しみ』あるいは『惜(愛)しみと』と捉えることは無理であろう。」としている。次に「四」の項では、「雄々し」とした場合について語法での説明のほか『日本書紀』や『源氏物語』などの用例と言葉の意味、さらに表記の観点からも説明している。以上の理由から、「六」の項で「『雲根火雄男志等』は『畝火雄々しと』と解釈してよい」と結論づけている。

⑤『セミナー万葉の歌人と作品 第1巻』には「中大兄の三山歌」という論文があり、始めにこの歌の書き下し文が掲載されている。また、「2 一三歌の問題」の項には、三つの山の性別について④の資料と同じ四つの説が紹介されている。そのうち現在有力とされているのは「(a)香具山(女)・畝傍山(男)・耳梨山(男)」と「(d)香具山(男)・畝傍山(女)・耳梨山(男)」の二説とされ、その理由が示されている。根拠としては表記や語法などを挙げているが、どの説が正しいか「明解は得られないまま」としている。また、「天智・天武・額田王の人間関係をふまえるものとして読むことが、この歌の解釈の歴史には長くあった。三角関係ということをそのまま持ち込み、三山の性の決め手とするような関係づけかたはひかえねばなるまい。」と記述があり、「みずからの経験をふくみこみ―ただし、額田王をめぐる男女関係に直結すべきではない―、また、人々の妻争いの経験をもひきこんで歌ったものというべきであろう。」と結論づけている。

⑥『額田王』には「第五 大和三山の歌」の項があり、その中の「二 『三山歌』の内容」では冒頭に書き下し文が掲載されている。また、三山の性別について④、⑤の資料と同様、四つの説が紹介されている。また著者が自身の考えとして、現在有力なのは「香具山(男)、畝傍山(女)、耳梨山(男)」と考える説だが「香具山(女)、畝傍山(男)、耳梨山(男)」という説に惹かれると述べており、「三 畝傍山は雄男しい山」でその理由について記述がある。「四 『雄』を助詞とする説」では前者の説への反論を述べている。「五 三山歌を詠んだ理由」では三山歌の後半部の解釈について、中大兄の個人的体験が詠まれているのではないかと考察している。

⑦『みくにことば 第2輯』には「石川依平の『中大兄三山考』について」という論文があり、「五」の項に歌の書き下し文が掲載されている。また、石川依平の解釈は「畝火山は我こそ雄々しい(男らしい)香具山を得たいものだ、何で耳梨山などに譲ろうかと、耳梨山と争った」であると紹介されている。しかしこの歌の解釈にはいくつか説があるとして、④~⑥の資料と同様、四通りの説が書かれている。「六」の項では、原文「雄男志」の解釈について、万葉集の例などを挙げて解説されているが、「にわかに決めがたいというのが現在の結論である」と記述がある。

⑧『初期万葉をどう読むか』には「三山歌の形成―中大兄の三山歌」という章がある。まず、この歌の書き下し文が冒頭で紹介されている。そして「三山」の項では、④~⑦の資料と同様、三山の性別について、大きく四つの説に分かれているといった説明がある。さらに第五の説として「香具山―男、畝傍山―女、耳成山―女」が紹介されているが、「三山の伝承が後世に流伝し、さまざまに語られたの中の一つの姿であると理解した方がよい。従って、四つの説に分かれているとすべきであろう。」とある。また、各説の提唱者、支持する文献がまとめられており、時代によって支持される説が異なっていることも書かれている。著者は「古代の妻争い伝承は、二男一女型や三男一女型のように、おおむね複数の男が一人の女を争うもの」と述べ、三つの山の性別を「畝傍山―女、耳成山―男、香具山―男」と考える説を支持している。

⑨賀茂真淵記念館HP「【縣居通信6月】万葉集『中大兄三山歌』の謎」では、この歌の書き下し文と意味が紹介されている。過去様々な解釈がなされてきた歌であることが書かれており、④~⑦の資料と同様の説のうち、三山とも男で他の一人の女を争ったと見る説を除いた三種類が紹介されている。また、作者と弟の大海人皇子との額田王をめぐる確執と結びつき解釈されてきたことについて、「未だに定説はありません。」と記述がある。

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大和三山全てが詠まれた歌の全文と解釈

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①佐竹昭広[ほか]『新日本古典文学大系 別巻[5]万葉集索引』 岩波書店,2004,555p. 参照はp.480,482,504.
②佐竹昭広[ほか]『新日本古典文学大系 1 万葉集1』 岩波書店,1999,530p. 参照はp.23-24.
③上野誠『大和三山の古代』 講談社,2008,217p. 参照はp.97-142.
④犬養孝博士米寿記念論集刊行委員会『万葉の風土・文学』 塙書房,1995,720p. 参照はp.56-76.
⑤神野志隆光,坂本信幸『セミナー万葉の歌人と作品 第1巻』 和泉書院,1999,356p. 参照はp.104-109.
⑥直木孝次郎『額田王』吉川弘文館,2007,340p. 参照はp.103-131.
⑦國語學懇話會『みくにことば 第2輯』 中日出版,2018,205p. 参照はp.13-18.
⑧梶川信行『初期万葉をどう読むか』 翰林書房,1995,302p. 参照はp.163-192.
⑨縣居通信|賀茂真淵記念館【浜松生まれの国学者、賀茂真淵】「【縣居通信6月】万葉集「中大兄三山歌」の謎」
http://www.mabuchi-kinenkan.jp/waka/003.html(確認:2024.1.25)

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