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軍陣医学と軍事医学

質問内容

軍陣医学とは何か、また軍事医学とは何が違うのか知りたい。

回答内容

1.「軍陣医学」について記述があるもの
①『医学書院医学大辞典』の「軍陣医学」の項目に、「軍隊などの組織の公衆衛生の維持向上、戦場において予想される疾病・外傷の治療を主な対象とした医学領域をいう。」とある。
「軍事医学」の項目はない。

②『自衛隊十年史』の「第10章 衛生」に、「自衛隊において防衛衛生業務に従事する隊員は、自衛隊の任務の特殊性から、次の2様の面において専門的な知識および技術を修得しなければならない。その一は、部外の医師等衛生業務従事者の場合と基本的に同じもので、いわば一般的専門知識、技術である。その二は、自衛隊において特に要求されるもので、たとえば衛生部隊運用法、鉄砲弾等による傷害や特殊な骨折に対する処置、集団生活に伴う急性伝染病予防、航空医学、潜水医学等旧軍時代の言葉でいえば軍陣医学に相当するもので、いわば特殊的専門知識、技術である。」とある。


2.「軍事医学」「軍事医療」について記述があるもの
③『医学史事典』の「軍事と医療」の項目に「軍事医学」に関する記述があり、「軍事が国民生活の基盤である安全保障を本分とすることから、軍事医学の対象には軍人・軍属とそれらの家族に加え、保護の対象となる老若男女の健康管理までもが含まれる。すなわち、受傷・罹患から社会(戦列)復帰までを包括する一般的な臨床医学はもとより、戦地の衛生地誌および感染症制御、人的戦力確保のための選兵医学、集団の健康管理に関わる栄養学・衛生学、宇宙空間から深海までを対象とする特殊環境医学、それに軍事医療に寄与し得る技術開発など、軍事医学は基礎・臨床・社会医学の垣根を超えた総合科学としての広がりを持つ。」とある。
「軍陣医学」の項目はない。

④『地域のなかの軍隊 8』に所収されている「日本陸軍の軍事医療-病院・療養所」の「はじめに」の中で、「軍隊の医療というと、繃帯を巻いて松葉杖をついた負傷兵や野戦病院を思い浮かべるかもしれない。(中略)しかし、軍隊が医療施設を必要とするのは戦時に限らない。脚気をはじめ、コレラ、赤痢、トラホーム(伝染性結膜炎)、梅毒、なかには軍隊生活に適応できず精神に異常を来たす者など、入営中に病気に罹る者も少なくなかった。そのため、国内の主要駐屯地には、恒常的に軍病院が置かれていた。そして戦時になると、この軍病院を母体にして内地後方病院を編成し、戦地から後送されてくる大量の傷病将兵を収療するのである。」とあり、平時と戦時の軍隊の医療体制や特徴、問題などについて記述されている。


3.両者を同じ意味であるとしているもの
⑤『北関東防衛局広報』の「医学情報史料室『彰古館』」に、彰古館の説明として「かつて軍陣医学と呼ばれていた軍事医療の史料を収集・展示している全国でも珍しい医学情報史料施設です。」とある。

⑥「明治の陸軍軍医学校」『医学史研究』(61) の「Ⅱ.忘れられた陸軍衛生部の機関雑誌」「1.軍医、-森林太郎の場合-」に、「軍医とは、軍隊という集団社会にあって医療と衛生の軍務に従う医官の意味で、いわば軍陣医学に従事する医師を指す言葉である。軍陣医学とは、軍事医学とか軍隊医学ともいい、徴兵や募集により常備軍の兵員を選別し、その健康を管理し、疾病を未然に防ぐ集団を対象とした医学である。最終的には戦闘における消耗兵力の確保が課題である。」とある。


4.両者を区別して記述しているもの
⑦『日本医療の近代史』の第2章の「2 西洋医学の導入と医制」にある「軍陣医学とドイツ医学」の項で、「慶応四年に戊辰戦争が始まると、新政府は横浜に軍事病院を置いた。(中略)もともと、内戦である明治維新は戦陣医学を必要とした上にヨーロッパから派遣された医師も軍医が多かった。こうした事情を考慮すれば、近代日本医学の原点は軍陣医学だったといえるだろう。」とある。
また、同章「4 病院と軍隊」の「維新直後の軍病院」の項で、「戊辰戦争を契機に成立した軍陣医学は、政府組織が安定するとともに軍事医療として制度化される。」とあり、その後の軍医の養成や軍病院の設置について記述されている。

⑧『日本総力戦の研究 上巻』に、「軍事医学としては軍陣医学、武力戦攻防医学、航空医学等が今現にすばらしき発達を遂げつつある。」とある。

⑨「防衛医科大学の設立経緯と現在」『民医連医療』(180)の「防衛医大の役割」に、「(1)野戦(陸・海・空を含む)における、いわゆる軍陣医学を駆使できる軍医を養成する。(2)大型プロジェクトを主とした研究によって、核・生物・化学兵器に関連する医学および特殊環境の医学を含む軍事医学を発達させる。」とある。


その他、軍事関係の事典や用語集について、⑩『完本日本軍隊用語集』、⑪『軍事の事典』、⑫『国防用語辞典』、⑬『日本陸海軍総合事典』、⑭『防衛用語辞典』を確認したが、「軍陣医学」「軍陣医療」「軍事医学」「軍事医療」の項目は見つからなかった。

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①伊藤正男『医学書院医学大辞典』 医学書院,2009,3538p. 参照はp.751.
②「自衛隊十年史」編集委員会『自衛隊十年史』 大蔵省印刷局,1961,435p. 参照はp.320.
③日本医史学会『医学史事典』 丸善出版,2022,807p. 参照はp.506-507.
④荒川章二,河西英通,坂根嘉弘[ほか]『地域のなかの軍隊 8』 吉川弘文館,2015,247p. 参照はp.187.
⑤「医学情報史料室『彰古館』」『北関東防衛局広報』81,2015,p.5.
北関東防衛局(2025.2.13確認)https://www.mod.go.jp/rdb/n-kanto/event-katsudo/kouhou/kouhou.html 
⑥坂本秀次「明治の陸軍軍医学校」『医学史研究』61,1988,p.14.
国立国会図書館デジタルコレクション(2025.2.13確認)https://dl.ndl.go.jp/pid/3383869 
⑦宗前清貞『日本医療の近代史』 ミネルヴァ書房,2020,335p. 参照はp.60,69.
⑧寺田弥吉『日本総力戦の研究 上巻』 日本電報通信社,1942,591p. 参照はp.414.
国立国会図書館デジタルコレクション(2025.2.13確認)https://dl.ndl.go.jp/pid/3473083 
⑨熊久保朝正「防衛医科大学の設立経緯と現在」『民医連医療』180,1987,p.33.
国立国会図書館デジタルコレクション(2025.2.13確認) https://dl.ndl.go.jp/pid/3473083
⑩寺田近雄『完本日本軍隊用語集』 学研パブリッシング,2011,511p.
⑪片岡徹也『軍事の事典』 東京堂出版,2009,370p.
⑫防衛学会『国防用語辞典』 朝雲新聞社,1980,409p.
⑬秦郁彦『日本陸海軍総合事典』 東京大学出版会,2005,778p.
⑭眞邉正行『防衛用語辞典』 国書刊行会,2000,628p.

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「医学情報史料室『彰古館』」『北関東防衛局広報』

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「明治の陸軍軍医学校」『医学史研究』

「防衛医科大学の設立経緯と現在」『民医連医療』国立国会図書館デジタルコレクション

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390:国防.軍事

490:医学

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