昔、大槌島には恐ろしい大蛇が棲んでいました。この大蛇はたびたび海を渡り、日比村の山上にあった八幡宮のあたりに現れては、里人たちを恐れさせておりました。
八幡宮の神様は、日比村の住人で剣と弓の達人として知られた加地藤右衛門(かじとうえもん)の夢に姿を現わされ、「大槌島の大蛇が里人たちを悩ませている。お前がこの災いを取り除いてくれ」と告げました。
翌朝、目を覚ますと枕元に弓と矢が置いてあり、藤右衛門はそれらを手に海辺に向かいました。すでに大蛇はやって来ていました。
大きな松に巻きつき、近づく者を一呑みにしてやろうと待ち構えていたのです。
くわっと開いた口からは赤く長い舌がチラチラ、チラチラ、炎のように閃いて、それは見るも恐ろしい有り様でした。
藤右衛門は恐れる気配も見せず進み出て、100mばかり離れたところから矢を放ちました。矢は狙いをたがわず大蛇の喉に発止(はっし)と当たりました。
さすがの大蛇も、もんどり打って松の木から落ちました。すかさず走り寄った藤右衛門は腰の刀を抜いてとどめを刺し、見事に大蛇を退治したのです。
しかし、同時に彼自身も大蛇が死に際に放った毒気を浴びて倒れ、そのまま無念の最期を遂げてしまいました。
-参考-
・『玉野の伝説』
河井康夫/昭和53年(1978)
・『玉野むかし・ちょっとむかし』
森節子監修/アトリエ みずぐるま/平成10年(1998)
※イラスト「グループ絵本の友 な・か・ま」 森節子
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